日本の音楽教育では、小中学校ともに音楽は必修科目に定められていて子どもが音楽に触れる機会が用意されています。
ただ子どもたちからの評判は芳しくなく、課題点も多いように思えるのが音楽教育の現状です。
今回は日本の音楽教育とその課題についてお話ししましょう。
日本の音楽教育の歴史
日本の近代教育の始まりは明治です。明治維新によってさまざまなものも近代化が進み、音楽教育もその例にもれません。それまでとの大きな違いは、音楽教育が一般に開放されより体系的に音楽を学べるようになった点です。下等小学校には唱歌科という科目を、下等中学校には奏楽科という科目ができ、欧米の音楽と教育制度が導入されることとなります。
音楽そのものに関しては、明治以前の日本の伝統音楽は衰退し、1897年に文科省に設置された音楽取調掛という機関によって東洋西洋音楽の折衷が目標とされました。そののちドイツなどの欧米に留学した者たちによって(滝廉太郎や山田幸作など)西洋の作曲技法をベースにした新しい日本の音楽のスタンダードが出来上がります。現代の日本の音楽に通じるすべてはここから始まっているといっても過言ではありません。
学校教育の音楽科目は昭和16年に芸能科音楽になり総合的な音楽教育になり、そして1947年に学校教育法が公布され、学習指導要領が作られ現代的な音楽科となることとなります。
日本の音楽教育の現状
日本に体系的な音楽教育が登場して150年余り、現代の音楽教育の雛形ができて70年余りですが、現代日本の音楽教育はどのようなものなのでしょうか。
子どもが音楽を学ぶ場は?
当然のこと、学校教育が子どもの音楽を学ぶ主要な場所であることに現代も変わりはありません。6年制の小学校と3年生の中学校では義務教育として必修科目で、高校では選択科目として音楽の授業があります。
もう一つの主要な場所は習い事が音楽を学ぶ場となっています。
学校教育とその目的
日本の音楽教育はどういった目的で行われているのでしょうか。
日本の教育カリキュラムは学習指導要領という文部科学省が告示する教育課程の基準をもとに作成されています。それぞれ学習指導要領を見ていくとその目的は以下のようです。
【音楽編】小学校学習指導要領(平成29年告示)
音楽教育の目的
表現及び鑑賞の活動を通して、音楽的な見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の音や音楽と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
- 曲想と音楽の構造などとの関わりについて理解するとともに、表したい音楽表現をするために必要な技能を身に付けるようにする。
- 音楽表現を工夫することや、音楽を味わって聴くことができるようにする。
- 音楽活動の楽しさを体験することを通して、音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育むとともに、音楽に親しむ態度を養い、豊かな情操を培う。
【音楽編】中学校学習指導要領(平成29年告示)
音楽教育の目的
表現及び鑑賞の活動を通して、音楽的な見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の音や音楽、音楽文化と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
- 曲想と音楽の構造や背景などとの関わり及び音楽の多様性について理解するとともに、創意工夫を生かした音楽表現をするために必要な技能を身に付けるようにする。
- 音楽表現を創意工夫することや、音楽のよさや美しさを味わって聴くことができるようにする。
- 音楽活動の楽しさを体験することを通して、音楽を愛好する心情を育むとともに、音楽に対する感性を豊かにし、音楽に親しんでいく態度を養い、豊かな情操を培う。
実際に行われている音楽教育といえば、小学校では歌を歌ったりリコーダーなどの楽器を吹いたり、クラシックを鑑賞して感想文を書いたりといった内容だと思います。中学校でも大差はなく、音楽の表現技法や触れる楽器の幅や曲の内容が変わったりするのが主です。
習い事
日本では学校教育が始まる前から楽器を習い事として習う子どももしばしばいます。楽器は脳の発達に良く、感受性や集中力や協調性が身につくことが期待できます。また子どもに音楽家になって欲しいと思う親が、なるべく早くから習い事をさせるケースも多いです。
習い事として人気の楽器はピアノ、エレクトーン、ギター、ドラム、バイオリンなどがあります。
音楽教育の課題って?
日本の子ども達は学校の音楽教育をどう評価しているかご存じでしょうか。非常に残念なお話なのですが、「音楽は好きだけど、音楽の授業は嫌い」という声が多いです。
なぜこのような評価となってしまっているのか、どうすればいいのかを考えていきましょう。
学習指導要領が示す課題点
平成29年に公示された改訂学習指導要領では、
「音楽科、芸術科(音楽)においては、音楽のよさや楽しさを感じるとともに、思いや意図を持って表現したり味わって聴いたりする力を育成すること、音楽と生活との関わりに関心を持って、生涯にわたり音楽文化に親しむ態度を育むこと等に重点を置いて、その充実を図ってきたところである。」と、音楽教育が音楽に触れる機会を与え、日々の生活の中で音楽を生涯にわたって楽しむ姿勢を養えていると評価している一方で、「感性を働かせ、他者と協働しながら音楽表現を生み出したり、音楽を聴いてそのよさや価値等を考えたりしていくこと、我が国や郷土の伝統音楽に親しみ、よさを一層味わえるようにしていくこと、生活や社会における音や音楽の働き、音楽文化についての関心や理解を深めていくことについては、更なる充実が求められるところである」という課題を示している。つまり子どもが音楽の鑑賞や表現する際に感性が十分に発揮されていない、消極的に授業を受けているということや、日本の唱歌やわらべ歌や民謡などに興味が少ないこと、音楽が普段の生活に役立つと感じていないことを課題と受け取っています。
音楽という「教科」の現実
教育指導要領を見ていると、実に的確に現状分析できていると思います。全国の音楽の先生の大部分には申し訳ないのですが、要は音楽の授業が面白くないのです。
なぜなら実際の教育現場が音楽というものに正解や絶対的な評価なんてものを持ち込んでいるからです。本当は個人の感性に正解があるわけではありませんし、優劣があるわけないんです。でも評価しなければならないので、お手本を用意します。クラシックの名曲などの鑑賞で感想文にお手本があるのなんてぞっとします。評価するために、平均的で模範的な感性を是とし、そこから外れたものを否とするのが日本の音楽教育の正体です。個人の感性を伸ばすことせず、評価に押し込めようとすればそりゃ感性も死んでいきます。そんな音楽の授業、面白いはずがありません。
小学校の音楽教育に関しては、2008年以降音作りが指導要領に盛り込まれたため多少は、マシと思います。それでもすべての音楽の先生がうまく行えているわけではありませんし、事実つまらない音楽の授業というのはいまだに全国にはびこっているわけです。教育批判をしたいわけでもありませんしが、現実として音楽の授業がつまらないことをもう少し皆さんに考えてほしいです。
課題を解決するために
いかがでしたでしょうか。今回は日本の音楽教育事情についてお話ししました。
音楽などの感性がものをいう分野において、理屈にみちたおためごかしなんてまったく意味を持ちません。子どもは授業が面白いかつまらないかなんて容赦なく判断しますし、現状の「音楽の授業」を直感的に「感性が必要ない」と子どもが判断しているからこそ、学習指導要領で挙げられるような課題があるのでしょう。
体系的に音楽を学ぶこと自体を批判しているわけではないです(むしろ、教育指導要領に書いてあるエッセンスをすべて実践できていれば、つまらない授業にはなりえません)。それをそういうものだと押し込めるのではなく、何のために必要なのかを体験的に理解できる授業を心掛ければ、音楽の授業を楽しもうという意欲はわいてくると思います。