伝説のピックアップ職人フェンダー社のアビゲイル・イバラ

伝説のピックアップ職人フェンダー社のアビゲイル・イバラ

一つひとつ手作りで何かを作り上げる職人芸。

楽器を作る職人は数多くいて、ピアノ、バイオリン、ギター、ドラムなど各楽器に職人がいることを考えると途方もない。

今回はそんな中でも、エレキギターの本体ではなくピックアップというパーツを作る伝説の女性職人を紹介します。

そもそもピックアップとは

エレキギターに搭載されているピックアップ
エレキギターに搭載されているピックアップ

エレキギターにはピックアップという弦の振動を電気信号に変換してアンプなどから音を拡張して鳴らすマイクのような装置がギター本体に埋め込まれています。

振動を電気信号に変換するためには磁石を使用し、アルニコとセラミックという2種類の磁石を音の傾向によって使い分けています。(アルニコの中でも種類が別れています)

また、ギターの特徴や鳴らしたい音に合わせてシングルコイル、ハムバッキングなどコイルの仕様が違うピックアップもあります。

基準となるピックアップ

そんなピックアップの基準ともいわれる、Fender(フェンダー)社のストラトキャスターなどに搭載されているシングルコイルのピックアップは1950年代から製造され続けていて、さまざまなモデルが発売され、Fender以外の各メーカーもたくさん開発し発売されています。

※1940年後半には現在のテレキャスターの原型が製造されておりFenderのピックアップの歴史はもう少し古いです。

伝説のピックアップ職人

Seymour Duncan公式チャンネル

そんなFenderに1956年に入社し1958年から2013年に引退するまで50年以上ピックアップ職人として手巻きピックアップを作っていて『Queen of Tone(トーンの女王)』と呼ばれ『アビー』の愛称で呼ばれるAbigail Ybarra(アビゲイル・イバラ)という女性をご存知でしょうか?

アビゲイル・イバラは1956年、G&Lでもお馴染みのジョージ・フラトーンに雇われFenderに入社します。はじめはピックアップの仕事ではなくフレットを磨く仕事を割り当てられたそうです。

そして、1958年頃からピックアップを巻く仕事につき、創業者のレオ・フェンダーや初代手巻き女性職人ピラール・ロペスから直接指導してもらいピックアップの技術を習得していきます。

FenderのCBSの買収や、その後のFenderの変革期も乗り越え、Fenderの職人として従事し、誰よりも長くFenderでピックアップを巻いていた人物です。

※噂では彼女が巻いたワイヤーの長さは地球を16周回るほどらしいです。

ピックアップ職人としての信頼性

アビゲイル・イバラはFenderの創業者レオ・フェンダーから技術を学びFenderの最高峰カスタムショップの職人であるマスタービルダー達がピックアップを依頼するほど信頼され、あのセイモア・ダンカンも噂を聞きつけて会いに行き彼女の腕に惚れるほどの人物。

アビゲイル・イバラとセイモア・ダンカンの出会いについて

Seymour Duncan公式チャンネル

アビゲイル・イバラの技術

アビゲイル・イバラはピラール・ロペスから受け継いだハンドワウンド(手巻き)の技術を探求し続けました。そしてひとつひとつ丁寧にピックアップを作り自分だけの音を見つけ出しました。

手巻きといっても小さな機械を使用してボビンを回し、手で巻き方を調整する手法です。

実際に彼女が巻いている動画はこちら

Fender公式チャンネル

CBS時代には機械で量産することをすすめられて手巻きをさせてもらえない時期もあったそうですが、機械で巻くような均一な巻き方ではなく、コイルに空間ができて静電気容量が低下し高周波が通過できるようになることで共振ピークがわずかに増加することで個々に独自のトーンが生まれるそうです。

彼女が巻いたり監督したピックアップの裏側には『AY』というサインが入っています。

ピックアップの裏に『AY』というサイン
ピックアップの裏に『AY』というサイン

あのギタリスト達も使ったピックアップ

ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・レイ・ヴォーンなど世界に誇るギターリストも彼女が巻いたピックアップを搭載するギターを持っていたそうです。

あのギターにも搭載されている

Fenderがビートルズのジョージ・ハリスンが使用したストラトキャスターの復刻版『GEORGE HARRISON ROCKY STRATOCASTER』を製作するにあたり、彼女のピックアップを採用しています。

筆者もついに手に入れました

CUSTOM SHOP ’69 STRATOCASTER®︎ PICKUP SET

CUSTOM SHOP '69 STRATOCASTER®︎ PICKUP SET
パッケージ(表面)
CUSTOM SHOP '69 STRATOCASTER®︎ PICKUP SET
パッケージ(裏面)

パッケージにもアビゲイル・イバラが作成したことが書かれています。

未使用のピックアップを手に入れてしまったため、自分のギターに搭載するのを躊躇ってしまいます。

職人技術は継承されていく

アビゲイル・イバラの技術は1991年にFenderに入社したホセフィーナ・カンポスに受け継がれました。

ホセフィーナ・カンポスはアビゲイル・イバラに師事し3年間手巻き技術を学び、2018年彼女が製作した特別なモデル『Josefina Hand Wound Fat ’50s Stratocaster Pickup Set』が世界300個限定で発売されました。続けて2020年には『JOSEFINA HAND WOUND FAT ‘60S STRATOCASTER® PICKUPS』を日本国内30個限定で発売されました。

すでに、人気でプレミア物のピックアップになっています。

Fenderの手巻き技術はピラール・ロペスからアビゲイル・イバラそしてホセフィーナ・カンポスと3世代に渡って継承され高品質なFenderのギターやベースが製作されています。

今回の記事について

アビゲイル・イバラの情報は国内には少なかったため、インターネット上にある海外サイトの情報をかき集めて書かせていただきました。

新しい情報を発見したら、この記事をアップデートしていきます。

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