今や私たちの生活には音楽が必要不可欠で、老若男女問わず日々音楽を楽しんでいます。
そんな中、ふと思うのは、『音楽』という言葉はいつ生まれ、どのようにして使われるようになったのか、そんなことを疑問に思ったりします。普段なんとなしに使っている言葉の語源を知るのは面白いですよね。
今回は『音楽』という言葉について解説していきます。
『音楽』という言葉の語源
さて『音楽』という言葉の語源を探したときにしばしば目にするのは、「音を楽しむから音楽!」という意見です。とてもそれっぽいのですが、これは本当なのでしょうか。
『音』と『楽』という文字について
まずはそれぞれの漢字を見ていきましょう。
『音』という文字は『言』という会意文字と『一』という指示文字が組み合わさってできた会意文字です。『言』という言葉は口から出た声のこと、『一』はそれに節があることを指しているということのようで、口から出た節のある声が『音』のようです。
『大漢和辞典』より
『楽』という文字は象形文字で、木にどんぐりを付けた楽器の形を文字にあらわしたものなので、ずばり楽器のことを表すのが『楽』のようです。
すなわち『音楽』というのは、口から出た節のある声と楽器からなるものを表していることになり、まさしく私たちが普段イメージしている、「音楽=歌や演奏」というイメージと一致しますね。
「音を楽しむから音楽」というのはあながち間違えではない
ということは、「音を楽しむから音楽!」というのは間違った認識なのでしょうか。ところがあながちそうとも言えません。
『楽』には確かにたのしむ、たのしませるという意味があります。実はその意味がどこからきているのかというと、楽器や音楽が人をうれしくさせる、たのしくさせるというところから来ているのです。なので結果的に『音楽』は「人を楽しませる音」なので「音を楽しむから音楽!」という認識は、(語源的には間違いでもニュアンスとしては)間違いとは言えないのです。
『音楽』という言葉の歴史
音楽という感じの熟語の成り立ちは何となく理解してもらえたと思います。それではその『音楽』はどのようにして日本で使われるようになったのか、その歴史をのぞいてみましょう。
『音楽』の起源
漢字の起源は中国にあるので、当然『音楽』という言葉が生まれたのも中国でのことです。『音楽』という単語が確認できるもっとも古い文献は紀元前239年の書物である『呂氏春秋』です。ただしこの書物で語られる『音』と『楽』については現代日本で使われる概念と異なり、
「人が外界の事象に接して心が反応するとき、『声』が生じ、その『声』が文をなし、和合したものが『音』である。その『音』に『舞』がともなうとき、それを『楽』という」
羽床正範『呂氏春秋の音楽思想について
と定義しています。
日本で音楽という単語が使われている古い記録としては、『律令』『風土記』『万葉集』がありますがいずれも現代的なニュアンスでの『音楽』を指すものではなく、それが指すものは雅楽であったり、歌舞であったり、仏教音楽であったりと特定の音楽ジャンルを表すものでした。
現代語の『音楽』の語源
それでは現代使われているニュアンスで『音楽』という単語が使われ始めたのはいつ頃の話なのだろうか。
実はそれは比較的新しい話であり、明治以降のことなのです。文明開化によって、『music』という単語が日本に入ってきたときに、訳語として割り当てられたのが『音楽』なのです。今までの話は何だったのか、と言われそうですがすなわち『音楽』という言葉の出自を全く飛び越えて割り振られた意味が現代における『音楽』の語源なのです。
『音楽』という単語のルーツ
いかがでしたでしょうか。今回は『音楽』という単語について解説しました。
それぞれ文字の由来と歴史的なアプローチを行いましたが、なかなか興味深い内容だったのではないでしょうか。
普段から私たちが何気なく使っている単語のルーツを知ることによって、音楽への理解もより深まったことと思います。ぜひ参考になれば幸いです。